この町の数少ない娯楽施設のひとつに温泉公園なるものがあります。しかし、
温泉文化に生きてきた日本人たちがここの温泉にノスタルジアを求めて集まるか
どうかは疑問に思う施設ではあります。
20分ほど郊外に車を走らせるとフェンスで囲まれた敷地があります。
ちょっとした椅子やテーブル、ビールやジュースを売るバール、ビリヤード台
(どんないなかにいってもある)、子供用のブランコなどがあり、いわゆる公園。
休日には地元の人が家族づれで訪れてのんびりしている光景が見られます。
その敷地のはしっこに、公衆トイレのようなたてものがあります。(最初はほんと
うにトイレかと思った)その中に、温泉水をはったコンクリートの「浴槽」が。
お湯の色は、建物の中が暗いからかもしれないけれど、黒っぽく濁っている。
とろっとした感じで、それが湯質なのかどうかは…。硫黄の匂いが唯一、
私をそこに飛び込ませる勇気をくれたといってもいいでしょう。「湯」というには
冷たすぎ、赤道直下に近いこの町だから外気のほうが暖かくて、温泉から出る
とぶるぶるっとするくらいです。日本なら適温まで沸かすんでしょうが、
ここでは温泉につかって温まる、といった習慣もないので(温まらなくても暑い)
自然のままです。隣には、水着に着替える更衣室と、入浴の前後に体を流す
シャワーがあります。
ブラジル人たちはだいたい、ここでビールを飲み、音楽を大音量でかけ、
子供達をブランコで遊ばせ、外にあるプール(というか、水溜め?)で水遊びを
するためにここを訪れるようです。温泉は、彼らにとってはおまけ的存在。
ここを経営しているのがブラジル人だから、温泉に対する意気込みもいまいちで、
日本人の私は舌打ちをしたい気分。もしも私がここを経営するなら、せめて
その囲いをとっぱらって露天風呂にするのになぁ。せっかくこんなに広々とした
大地が広がっているんだから。といつも思います。そうしても地元のブラジル
人たちの間では流行らないんでしょうが、日系人のおじいちゃんおばあちゃん
たちの保養施設にはなれるかも。
私をいつもそこに連れて行ってくれる人は日本人です。昼間からわざわざ
そこへ行くことはめったになく、遠出なんかして疲れて帰ってきた夕方「ちょっと
よってくか」といって、薄暗い温泉につかり、一日を締めくくります。
疲労回復効果を求めて。
このあたりは日本人の温泉観でしょう?
日本から遠く離れたこのアマゾンでも、日本人は、新鮮な魚はつい刺身を
とってしまうように、うなぎに似た魚はやっぱり蒲焼にしてしまうように、
スパゲティを冷麦のかわりにつゆにつけて食べてしまうように、姿形は
ずいぶん違っていても、体が欲しがる日本があるんでしょうか。
そういえば、余談ですが、『オーパ!』の著者開高健氏(※コラム「亀の臓物の
恍惚」参照)がこの町に着いたとき、ムクイン(アカダニの一種。
これに刺されるとヒジョーに痒く、2、3日つらい)にやられて苦しんでいた。
そこでこの温泉に連れていったところ、ケロリと治ってしまった。
とは、かのにっこりおじさん談。効能、ムクイン。